客が驚き不思議がるのは、「突然に品物があらわれた!」

「突然に跡形もなく消えた!」または、その品物が変化したり、

移動したり、ときには自分の心の中を読まれたりしたときです。 

 

つまり、一般常識では測り知れない現象が起きたとき、

初めて不思議に思うものです。 

 

仕掛けはもちろん、技法もテクニックも使わずにそんな現象が

起きたなら、誰だって信じがたいでしょう。これこそ魔法であり、異次元の世界なのです。 

 

超魔術といわれ、一時的にはやった現象にこれは近いはずです。しかし、この超魔術すら何かがあるはずです。 

 

ところでこの不思議な現象を解決するには、マジシャンなら容易にできるはずです。「空中に品物があらわれる」という現象を、たとえばマニピュレーション(手練)で表現するとします。 

 

すると、この現象を表すために「スチール」「パーム」「パス」などの技法を使えば良いだろうと思いつくはずです。 

 

一般常識で不思議とは、先ほども話したように、技法が「ゼロ」のときです。ところがマニピュレーションで表現するには、ある程度の技法を用いないことには不可能です。 

 

たとえば一個の品物を出すために「パーム」をした手から出現させたならば、技法を一つ使用したことになります。パームするため「スチール」をしたのな ら、二つの技法を使ったことになります。この間に「パス」の技法を入れたのなら、三つの技法を用いたことになりなす。さらにパスを繰り返したなら四回も技 法を使うわけです。 

 

何をいいたいのかというと、つまり、技法を多用すればするほど不思議さは薄れていくということです。 

 

この論で行くなら、無駄な技法は多用しない方がベターだということが理解できるはずです。 

 

「右手を改め、左手を改め、そのあげくに手の甲も何度も改めてから、品物を出した」とします。この手を改めている動作の間に、幾度となくパスを繰り返し ているわけです。今のマジシャンには考えられないかもしれません。しかし、2、30年前まではこれが普通だったのです。これができることが日本のマジシャ ンのステータスシンボルでもあったのです。 

 

せっかく覚えたんだからといって、技法だけ見せる方法は練習だけに止めておきたいものです。 

では、技法の回数を「ゼロ」に近づけるためには、どうしたら良いのか…と考えてみますと、一回のスチールで一個の品物だけでなく、同時に二、三個をス チールした方が良いはずです。パームでも、何個かを同時に持っのも一つの方法です。が物には限度があります、たとえばレモンを片手で三個以上パームするな んて不可能に近いことです。 

 

普通はポケットから品物を出したときに、同時にパームもしてくる。物を捨てたときや置いたときに、必要な物をパームする。品物を右手から左手に渡したと きにパスをする。右手で出現させたとき、左手は陰の動作を行う…など。つまり、ある現象や動作のときに、必要な技法を同時に行う方法です。 

 

これは、ポケットから品物を出したとき、手に何かをパームしているのは、パームという技法を優先しているのではなく、品物を持ってきたことを見せているのです。 

 

話しがややこしくなり分かりにくいかもしれませんが、現象によって、技法は抹消され「ゼロ」になったと考えてみてください。実際には技法を使いながらも、客には現象だけが映っているのです。 

 

もし、あなたが指導を受けた際、「シンプルに!」「ナチュラルに!」と指摘されたとしたなら、たぶんこのことも含んでいるのかもしれません。 

 

何気ない自然な動きの中で技法を用いる。このことはマジシャンにとっては当たり前のことです。でもあらためて考えてみますとおもしろいものです。

現象をおこすとき技法の回数を減らそう

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